昨年2月にもご紹介しましたが、弊社では、ランドセルの傷のリペア(修理・修復・補修)の依頼が結構あります。
そんな中、昨年12月(先月)にリペアし完成品を郵送でご自宅にお送りしたお客様に大変印象に残った方がいらっしゃいますので、ちょっとご紹介させていただきます。
奥様から電話でお問い合わせいただいた折に、他府県でけっこう遠方ですので「郵送で送ってくださったらよいですよ。」ということをお伝えしたのですが、どうしても持っていきたいとのことで、何か伝えたいことがあるような様子でした。
そして、冬休みに入り間もなくランドセル(セイバンのクラリーノ)を持って来社されました。
きっと、ご主人あるいは奥様が届けに来られるのだろう、と予測していたのですが、車からは、ご夫婦ならびにお子さん達ご家族勢揃いで降りてこられたのです。
その時は、遠方ですし、せっかくだから神戸で遊んで帰ろうというようなちょっとした小旅行気分で、家族揃ってドライブも兼ねて来られたのだろうという程度に思ったのです。
ランドセルの持ち主はご長男のお兄ちゃんで、今年で6年生、小学校生活も残りわずかです。
友達が後ろから引っ張って、背中から倒れてしまい、今回の傷が入ってしまったそうです。
奥様からの説明で、上のほうに薄っすらとある(2本くらいだったかな?)軽い引っかき傷は「この傷だけは小学校の思い出なので消さないで欲しいんですが、そんなことできますか?」とおっしゃるのです。
それを聞き「なるほど!確かにそれも思い出の一つですね。」と答え、でもせっかくリペアするならば綺麗に傷が無くなったほうがよいのでは?と思い。本人はどう思っているのだろうと思った私は、お兄ちゃんの顔を見て聞くと、しっかりと私の目を見つめ、”それは僕の思いなんです。”というのがはっきりと伝わってくる真剣で純粋な目で、そしてはっきりとした口調で、「この傷は残って欲しい。」と言いました。
その時の、しっかりとした、そして思いのこもった少年の顔は、素晴らしい表情でした。
大人には、あんなに素直で綺麗な表情はできない、と言いたくなるくらい頭に焼きついて印象に残っています。
神戸に遊びに来るとかドライブも兼ねてとかいうのでは無く、
今回の引っ張られて倒れてできた傷は納得できないけれど、自分で付けた薄い引っかき傷は思い出なんだ!というはっきりとしたお兄ちゃんの思いがあり、それは絶対残したいから自分も来たんです。というような心が伝わってきました。
上の写真がリペア前の写真で、下の写真がリペア後の写真です。
リペア後の写真は太陽の光が奥から差し込んでいて肝心のリペア面が逆光で暗くなってしまっており、この写真では殆ど分からないかもしれませんが、上部のほうの薄い引っかき傷1・2本をちゃんと残しています。
お兄ちゃんのあの、小学生とは思えないくらいしっかりとした、そして真剣な表情が忘れられません。
色んなリペアを沢山おこなう中でも、長く記憶に残るリペアになりそうです。