家具ブランドなんて知らない又は興味がないという人でも、Cassina(カッシーナ)という名は、「知っている・聞いたことがある」という方が結構いるのではないかと思います。
Cassina(カッシーナ)は1927年に設立され、「ジオ・ポンティ」「チャールズ・レニー・マッキントッシュ」「フランク・ロイド・ライト」「ル・コルビジェ」等様々な建築家やデザイナーとコラボレイトし、多くの花形デザイナーを世に送り出してきた、イタリアで最も高いステイタスを誇り世界を代表する家具メーカーです。近代的な生産設備と熟練の職人の技術が見事に結晶し、デザイン、品質ともに質の高いコレクションを創り出しています。
そんなカッシーナの家具の中でも最も有名なのが、デザイン界の巨匠「マリオ・ベリーニ」デザインの【CAB Chair】(キャブシリーズ)です。1977年の発表以来、イタリアモダンデザインを代表するチェアとして数多くのメディアで絶賛されています。カッシーナ独自の厳しい基準をクリアーした最高級の鞣革(なめしがわ:ヌメ革とも呼ぶ)は使い込むほどに体に馴染み、また味わいを増していく表情も魅力の一つです。
モダンアートの殿堂”MOMA”ことニューヨーク近代美術館に、永久保存品として展示されています。
今回はそんな【CAB Chair】(キャブシリーズ)の、肘掛のない412「キャブアームレスチェア」3脚と、肘掛のある413「キャブアームチェア」1脚のクリーニング(汚れ落とし)をご紹介します。
全6脚あったのですが、うち2脚は最近買い足した物で、さほど汚れは無く綺麗でしたので、4脚のみ施工することになりました。
メーカーや販売店、そして何軒もの家具クリーニングをおこなっているところに相談したけれど、全て断られたとのことです。
本来、弊社でも、ヌメ革の製品は施工対象外なのですが、少しでも今よりましになれば良いので何とかして欲しいというたっての要望を受け(今までに何度か、同様の要望でキャブチェアを施工した経験もあったことから)、お引き受けしました。
上の写真4枚は、施工後の写真です。
じゃー、施工前はどうだったのかと言うと。
下の12枚の写真をご覧ください。
全て、左の写真が施工前(ビフォー)で、右の写真が施工後(アフター)の写真です。
どのチェアも似たような汚れでしたので、ビフォー・アフターの写真は1脚だけ載せます。
上の4枚の写真でいうと、左下のチェアです。
鞣革(なめし革:ヌメ革)と言えば、誰もがよく目にするのは、ルイ・ヴィトン製品ではないでしょうか。
ヴィトン製品の革部分。あれがヌメ革です。
ヌメ革は、皮を鞣し(なめし)たもので、味わい深い風合い豊かな飴色(アメ色)とツヤに変化してきます。
素性の良いヌメ革製品の愉しみの一つに「経年変化」があります。「エイジング」とも言います。エイジングが進めばさらに革の魅力が引き出されていきます。ヌメ革製品は使い始めはまだまだ未成熟で、革本来の魅力が眠っている状態です。使い込むことで、革の魅力を上手に引き出していきます。
ヌメ革は表面になにも加工をされていないので、水に特別弱いことで知られています。特におろしたて当初は水に濡れるとすぐにシミになってしまうので、ある程度使い込んで表面がコーティングされるまでは特に注意が必要です。ヌメ革は使用しているうちに、色と共にツヤが出てきてそれがまた風合いを増す要因にもなっています。熱・刺激により革が元々含んでいる脂分が表に染み出してきます。これが表面にツヤのある皮膜(コーティング)を作り、味わいと共に、ある程度の撥水効果をも持たせることになるのです。言い換えると、まだツヤの出ていないヌメ革は、非常に水に弱くシミのできやすい状態のままで、革が育っていないと言えるでしょう。
まだ購入してさほど使用していないルイ・ヴィトン製品(の革部分)が、雨に濡れただけで水ジミができてしまい、しかも何をやってもシミが取れないということを経験されている方も多いのではないでしょうか。
ヌメ革製品のクリーニングが、どこに相談しても断られる理由がここにあります。下手に手を出してしまうと、シミだらけになってしまったり、汚れが取れるどころか、余計に全体が汚れで染まって黒ずんでしまったり、大抵の場合、悲惨な状態に至ってしまうのです。
そんなヌメ革ですが、写真をご覧になって、いかかでしょう?
汚れもシミもそこそこ綺麗になっていると思いませんか?
カッシーナの値打ちも、これなら結構復活したのではないかと思うのですが。
今まで、ヌメ革製品のクリーニングを、試行錯誤しながら経験してきたからこそできると思っております。それに今でも決して十分に満足のいく施工ができる訳ではありません。だから弊社でも本来、施工対象外です。
乾いた布や柔らかいブラシ等で汚れを拭き取ろうとする程度なら良いですが、この写真を見て、自分でもできるんじゃないかと思って、何らかの洗剤(クリーナー)などを汚れに吹きかけて擦るなど絶対にしないようにしてください。 ヌメ革はそんな生易しい物ではありません。ほぼ九分九厘、後で大後悔することになると思います。